2016: 5-Hydroxymethylcytosine Marks Sites of DNA Damage and Promotes Genome Stability

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)Peter Carlton 准教授の研究グループは、DNAの損傷修復に重要な修飾の働きと、その欠落が腫瘍形成につながる仕組みを解明しました。

DNAを構成するシトシンという塩基がうける修飾の一つに、ヒドロキシメチル化という修飾があり、従来、この修飾(ヒドロキシメチル化シトシン:5hmC)は、遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきました。今回同グループは、5hmCがゲノム中の損傷を受けたDNA部位に集積して修復を促進することを発見するとともに、5hmCのDNA修復における働きにはTETと呼ばれる一群の酵素が重要であることも明らかにしました。

 細胞内で遺伝子の働きをオンにしたりオフにする際、DNAにメチル基を加えたり取り除いたりすることで遺伝子の働きを制御することができます。メチル基の除去(脱メチル化)の際、5hmCがその中間生成物としてDNA上に存在します。TET酵素は、この脱メチル化に必要な酵素と考えられています。最近の研究により、5hmCは、細胞核において開放型のクロマチン(DNAとタンパク質の複合体)と共に存在することが知られています。

5hmc colocalizes with protein markers of dna damage in hela cells

5hmc colocalizes with protein markers of dna damage in hela cells

5hmCとTET酵素は、DNA損傷部位を標識するために重要で、ゲノム機能を保つために働く。
©論文著者

 同グループは、細胞内で自然に傷ついたDNAやDNA損傷誘導化合物、レーザー照射などにより人工的に傷つけられたDNAの損傷部位に、5hmCが集積することをCell Reports誌で発表しました。また同チームは、TET酵素を除去すると、DNA損傷部位における5hmCが消失すること、そしてその細胞では染色体の分配に不具合が起こることも明らかにしました。これは、TET酵素がDNA損傷部位における5hmCの生成に重要であり、5hmCがDNA損傷を修復するプロセスに重要な役割を果たすことを示します。

 本研究は、5hmCがクロマチンを開放型にして、DNA損傷の修復に働くタンパク質がDNAの傷にアクセスできるようにしている可能性を示唆しています。また、5hmCをDNA損傷部位の目印として活用する考えも示されました。

「我々の発見は、何らかの理由によりTET酵素や5hmCが減少した場合、それがゲノムの不安定化、不正確な染色体の分配、そして最終的に細胞の癌化に繋がることを示しています。この知見により、癌細胞でよく見られる5hmC量の低下という現象を説明できる可能性があります。」と研究チームは話しています。


 本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業および(CREST)国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究領域「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」、独立行政法人日本学術振興会外国人特別研究員、 公益財団法人稲盛財団研究助成金、公益財団法人住友財団基礎科学研究助成の支援を受けて行われ、2016年2月4日にCell Reports誌にて公開されました。

 

 

2014: Protein phosphatase 4 regulates homologous chromosome pairing and synapsis, and maintains recombination competence with increasing age.  PLOS Genetics (2014) DOI: 10.1371/journal.pgen.1004638

Sato-Carlton, A., Li, X., Crawley, O., Testori, S., Martinez-Perez, E., Sugimoto, A., and Carlton, P.M.

Press release in English (Link)

京都大学(総長:山極壽一)物質-細胞統合システム拠点 iCeMS)のPeter Carlton(カールトン ピーター)准教授の研究グループは、精子と卵子を産み出す細胞分裂(減数分裂)において保存されたタンパク質脱リン酸化酵素PP4が、重要な役割を果たすことを発見しました。

  私たちは、減数分裂における正確なゲノムDNAの半数化を支えるメカニズムを理解するため、卵母細胞が非常に豊富なモデルである生物線虫を用いて、減数分裂に必須なタンパク質を探索しました。その結果、生物種間を越えて、広く保存されているタンパク質脱リン酸化酵素PP4が、減数分裂前期の染色体のふるまいを制御するために機能することを明らかにしました。減数分裂前期、父由来と母由来の相同な染色体同士は、隣同士に並んで、相同組み換えを起こすことにより、ゲノムDNA半数化に必須な構造(キアズマと呼ばれます)を作り出します。PP4を欠損した卵母細胞では、この相同染色体が隣に並ぶ段階と、相同組み換えを起こす段階それぞれに独立して不具合が生じるため、最終的に異常な卵子を形成してしまいます。また興味深いことに、若い線虫と、老いた線虫の減数分裂を比較すると、老いた線虫が卵子を産み出す際に、PP4の働きがより重要であることもわかりました。減数分裂前期の相同染色体が隣に並んだ構造は、非常に複雑かつ微細であるため、本研究は、超解像度顕微鏡3D-SIM(3次元構造化照明顕微鏡)という最先端の顕微鏡技術を用いて、生殖細胞の染色体の構造を解析しました。本研究でその機能を明らかにしたタンパク質脱リン酸化酵素PP4は、ヒトでも保存されているため、本研究は、現代社会で急速に増加しつつある不妊問題の理解に貢献する可能性があります。本成果は20141023日(木)に英国オンライン科学誌「PLOS Genetics(プロス ジェネティクス)」で公開されました。 

図:超解像度顕微鏡を用いて、卵母細胞の核における、DNAと減数分裂期タンパク質SYP-1, HTP-3の局在を可視化したもの。左上図では、DNAが灰色、SYP-1タンパク質が緑色、HTP-3タンパク質がマゼンタ色で示されています。上段のパネルが、正常な卵母細胞の減数分裂前期核を示します。正常な卵母細胞では、線虫の計12本の染色体が、6対の.相同なペアになり並んでいますが、下段パネルのPP4が欠損した卵母細胞核では、12本の染色体が、6対のペアとして並ぶことができないという異常が観察されました。